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東京地方裁判所 昭和51年(ワ)8150号 判決

原告 破産者山二建設株式会社 破産管財人成富信夫

右訴訟代理人弁護士 成富安信

同 山本忠美

同 青木俊文

同 宮下浩司

同 星運吉

同 田中等

同 高橋英一

被告 株式会社佐宗工務店

右代表者代表取締役 佐宗誠之助

〈ほか四名〉

右五名訴訟代理人弁護士 白井正明

同 白井典子

被告 日鐵商事株式会社 (旧商号入丸産業株式会社)

右代表者代表取締役 中野孝太郎

右訴訟代理人弁護士 千葉宗八

同 千葉宗武

同 青山緑

被告 新鋼工業株式会社

右代表者代表取締役 安達康之

右訴訟代理人弁護士 佐伯仁

同 田中健一郎

被告 島藤建設工業株式会社

右代表者代表取締役 佐藤菊雄

右訴訟代理人弁護士 須田恭平

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告に対し、被告株式会社佐宗工務店(以下「被告佐宗工務店」という。)は金二、〇〇〇万円、同有限会社三浦工務所(以下「被告三浦工務所」という。)は金五九六万五、八五〇円、同大成プラスター株式会社(以下「被告大成プラスター」という。)は金一四〇万円、同東海ブロック株式会社(以下「被告東海ブロック」という。)は金八〇万円、同大成ガス圧接株式会社(以下「被告大成ガス」という。)は金七六万二、八三〇円、同日鐵商事株式会社(以下「被告日鉄商事」という。)は金六〇〇万円、同新鋼工業株式会社(以下「被告新鋼工業」という。)は金六〇万円及びこれらに対する昭和四九年九月七日からそれぞれ支払ずみまで各年五分の割合による金員を支払え。

2  被告島藤建設工業株式会社(以下「被告島藤建設」という。)は、原告に対し、金三、五〇〇万円及びこれに対する昭和四九年八月二五日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  被告島藤建設を除く被告ら(以下単に「被告ら」ともいう。)に対する請求原因

1  訴外破産者山二建設株式会社(以下「山二建設」という。)は土木建築工事請負を業とする者であるが、昭和四八年一一月頃から経営難に陥り、資金繰りが極度に悪化して、昭和四九年八月にはその累積赤字は約二二億円に達し、遂に同年八月二八日及び同年九月一二日に手形不渡を出し、同月一七日には手形交換所の取引停止処分を受けるに至ったため、同月一一日東京地方裁判所に自己破産の申立(同裁判所昭和四九年(フ)第一五四号事件)をなしたところ、同裁判所は、同月二〇日午後四時山二建設に対し破産宣告をなし、原告をその破産管財人に選任した。

2  被告らは、山二建設が被告島藤建設から請負ったももんじやビル(東京都墨田区両国一丁目一〇番二号所在、以下「本件ビル」という。)新築工事の下請負人である。

3  被告島藤建設は、山二建設が第一回手形不渡を出した昭和四九年八月二八日、山二建設との間で本件ビル建築工事請負契約を合意解除し、現状のまま本件ビルの引渡を受けたうえ、本件ビル工事の出来高を七、〇〇〇万円と査定し、山二建設が受領すべき右代金中三、五〇〇万円を被告らを含む本件ビル建築工事の下請業者にその債権額に按分して支払う旨の合意をなし、同年九月六日、山二建設に代って、被告らに対し、それぞれ請求の趣旨第一項掲記の金員を支払った。

4  しかしながら、右金員の支払は山二建設の支払停止後になされたものであり、しかも、被告らは、昭和四九年八月二八日山二建設が手形不渡を出し、支払停止状態となるや、山二建設方に押しかけて説明を要求し、同年九月四日には、被告佐宗工務店、同三浦工務所が中心となり、被告佐宗工務店を議長として債権者準備委員会を結成する等したもので、いずれも山二建設の右支払停止の事実を知悉していた。

5  よって、原告は、山二建設の右弁済行為を否認し、被告らに対し、請求の趣旨第一項掲記の各受領金員及びこれらに対する受領日の翌日から支払ずみまでそれぞれ民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告島藤建設に対する請求原因

1  山二建設は土木建築工事請負を業とする者であるが、昭和四九年九月二〇日午後四時東京地方裁判所は同社に対し破産宣告をなし、原告をその破産管財人に選任した。

2  山二建設は、昭和四八年九月一三日、被告島藤建設から本件ビル建築工事を代金一億六、四五五万円で請負った。

3  しかしながら、山二建設は、昭和四八年末には経営が悪化し、昭和四九年中頃から支払が遅滞がちとなり、遂に同年八月二八日手形不渡を出して工事の続行が不能となった。

4  そこで、被告島藤建設は、右同日、山二建設との間で、本件ビル建築工事請負契約を合意解除し、(1) 山二建設は被告島藤建設に対し建築中の本件ビルを現状のまま引渡す。(2) 本件ビル工事の出来高を一億一、五〇〇万円と確定し、被告島藤建設は、山二建設に対し、支払ずみの四、五〇〇万円を控除した残金七、〇〇〇万円を直ちに支払う旨約した。

5  その後昭和四九年九月一〇日、被告島藤建設は、山二建設に対し、三、五〇〇万円を支払ったので、原告は、被告島藤建設に対し、第一次的には第1項の工事請負契約に基づく工事請負代金残額三、五〇〇万円の、第二次的には前項の合意に基づく支払金七、〇〇〇万円の残額三、五〇〇万円の支払を求める。

6  仮に右主張が容れられないとしても、山二建設が昭和四九年八月二八日被告島藤建設に引渡した当時の本件ビルの工事出来高は一億一、五〇〇万円相当のところ、被告島藤建設は、山二建設に対し、八、〇〇〇万円を支払ったのみで、その差額三、五〇〇万円の支払をしないから、同被告は何ら法律上の原因なくして同額を不当に利得し、これにより山二建設は同額の損失を被っている。

7  よって、原告は、被告島藤建設に対し、三、五〇〇万円及びこれに対する昭和四九年八月二五日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三  請求原因に対する被告佐宗工務店、同三浦工務所、同大成プラスター、同東海ブロック、同大成ガス(以下同被告らを指して「被告佐宗工務店ら」という。)の答弁

1  第1項の事実中、山二建設がその主張の如き業者であること、山二建設がその主張のとおり二回にわたり手形不渡を出して取引停止処分を受けたこと、山二建設に対し破産宣告がなされ、原告がその破産管財人に選任されたことは認めるが、その余の事実は知らない。

2  第2項の事実中被告大成プラスターに関する部分は否認するが、その余の事実は認める。

3  第3項の事実中その主張の日に山二建設と被告島藤建設が本件ビル建築工事請負契約を合意解除したことは認めるが、その余の事実は否認する。昭和四九年八月二八日、山二建設の手形不渡を機に、本件ビル建築工事の元請負業者である被告島藤建設は、山二建設との間で、本件ビル建築工事請負契約中断確認書を取交して山二建設との間の本件ビル建築工事請負契約を合意解除し、被告大成プラスターを除く被告らに対し、同被告らが同日以降被告島藤建設の職方として本件ビル建築工事を継続することを申出たときは、山二建設の右被告らに対する同日現在の未払工事代金債務を重畳的に引受けて、これを直接右被告らに支払う旨合意し、右被告らも山二建設と被告島藤建設間の右重畳的債務引受を承認した。そこで、被告島藤建設は、右重畳的債務引受契約に基づき、同被告自身の債務の弁済として、昭和四九年九月一六日、被告佐宗工務店に対し、同被告の本件ビルについての仮枠、内装木工事代金一、八八〇万円(出来高二、〇〇〇万円)を、被告三浦工務所に対し、同被告の本件ビルについての仮設足場、基礎根切、コンクリート打込等のとび工事、土工事等代金五一四万四、〇〇〇円(出来高五九六万五、八〇〇円)を、被告東海ブロックに対し、同被告の本件ビルについてのブロック間仕切工事代金五八万三、九〇〇円(出来高八〇万円)を、被告大成ガスに対し、同被告の本件ビルについての鉄骨、鉄筋圧接工事代金五五万六、七〇〇円(出来高七六万二、八〇〇円)をそれぞれ支払ったもので、右各支払は、いずれも山二建設に代って同社の債務の支払としてなされたものではない。なお、被告大成プラスターは、当初より直接元請の被告島藤建設から工事を受注したもので、右工事代金については、昭和四九年一〇月一一日から同年一二月二七日までの間に出来高七四〇万円のところを七二〇万円に値引して支払を受けているが、山二建設には関係がない。

4  第4項の事実中その主張のとおり債権者準備委員会が結成されたことは認めるが、その余の事実は否認する。

四  請求原因に対する被告日鉄商事の答弁

1  第1項の事実中、山二建設がその主張の如き業者であること、山二建設がその主張のとおり二回にわたり手形不渡を出して取引停止処分を受けたこと、山二建設に対し破産宣告がなされ、原告がその破産管財人に選任されたことは認めるが、その余の事実は知らない。

2  第2項の事実中被告日鉄商事に関する部分は認める。

3  第3項の事実中その主張の日に山二建設と被告島藤建設が本件ビル建築工事請負契約を合意解除したことは認めるが、山二建設からその主張の金員の支払を受けたことは否認し、その余の事実は知らない。被告日鉄商事は、昭和四九年九月一四日、被告島藤建設から、被告日鉄商事が同年四月三日及び六月一二日の二回にわたり山二建設から請負った本件ビルの金属建具取付工事代金の一部として、工事出来高六〇〇万円の七八パーセントに相当する四六八万円の支払を受けたが、右支払は、被告島藤建設と山二建設の被告日鉄商事に対する右工事代金債務についての重畳的債務引受契約に基づく被告島藤建設の債務の弁済としてなされたもので、山二建設の債務の弁済としてなされたものではない。

4  第4項の事実中債権者準備委員会が結成されたことは不知、その余の事実は否認する。

五  請求原因に対する被告新鋼工業の答弁

1  第1項の事実中、山二建設がその主張の如き業者であること、同社が取引停止処分を受けたこと、山二建設が自己破産の申立をして破産宣告を受け、原告がその破産管財人に選任されたことは認めるが、その余の事実は知らない。

2  第2項の事実中被告新鋼工業に関する部分は認める。

3  第3項の事実は否認する。被告新鋼工業は、山二建設の同被告に対する本件ビル鉄骨取付工事代金債務を重畳的に引受けた元請負業者の被告島藤建設から、同被告自身の債務の弁済として、右工事代金二六〇万円の支払を受けたもので、山二建設の債務の弁済として受領したものではない。

4  第4項の事実は否認する。

六  請求原因に対する被告島藤建設の答弁

1  第1、2項の事実は認める。

2  第3項の事実中山二建設が昭和四九年八月二八日手形不渡を出して工事続行が不能となったことは認めるが、その余の事実は知らない。

3  第4項の事実は認める。

4  第5項の事実中被告島藤建設が原告主張の日に三、五〇〇万円を支払ったことは認める。

5  第6項の事実中、本件ビル引渡当時の工事出来高が一億一、五〇〇万円であること、被告島藤建設が八、〇〇〇万円を支払ったことは認めるが、その余の事実は否認する。

七  被告島藤建設の抗弁

被告島藤建設は、昭和四九年九月七日山二建設の一般債権者、本件ビル工事の下請債権者、山二建設、被告島藤建設の間でなされた四者協定に基づき、同年九月一〇日、同月一四日の二回にわたり、山二建設の一般債権者に三、五〇〇万円を、本件ビル工事の下請債権者に三、五〇〇万円をそれぞれ支払ったから、これにより、被告島藤建設の山二建設に対する債務はすべて消滅した。

八  被告島藤建設の抗弁に対する答弁

被告島藤建設がその主張の金員を支払ったことは認めるが、その余の主張は争う。

九  被告島藤建設に対する再抗弁

被告島藤建設が本件ビル工事の下請業者になした支払は、山二建設の支払停止後になした同社の債務消滅行為に当るから、原告は、破産法第七二条第二号に基づき、これを否認する。

一〇  再抗弁に対する被告島藤建設の答弁

争う。被告島藤建設の支払は、前記四者協議の結果に基づき山二建設に代ってなされたもので、山二建設にとっては単なる債権回収行為にすぎないから、否認の対象となるものではない。

第三証拠《省略》

理由

一  山二建設が土木建築工事請負を業とする者であること、東京地方裁判所が昭和四九年九月二〇日午後四時山二建設に対し破産宣告をなし(同裁判所昭和四九年(フ)第一五四号事件)、原告をその破産管財人に選任したことは当事者間に争いがない。

二  《証拠省略》を総合すれば、山二建設は、昭和四八年九月中旬、被告島藤建設から本件ビル新築工事を、代金は一億六、四五五万円、支払方法は契約時二、〇〇〇万円、鉄骨建方完了時二、五〇〇万円、コンクリート建方完了時五、五〇〇万円、竣工時六、四五五万円の分割払い、工期は昭和四八年九月一日から昭和四九年九月三〇日までとの約で請負い、その頃着工したこと(山二建設が右年月頃、右代金で本件ビル新築工事請負契約を締結したことは原告と被告島藤建設との間においては争いがない。)、ところが、工事単価の値上り等の経済事情の変動から、山二建設は経営不振となり、昭和四八年度決算においては相当額の欠損を計上し、翌四九年五月ないし六月頃から下請業者に対する支払も滞りがちになってきたこと、山二建設は、被告島藤建設に対し本件ビルの出来高に応じた工事代金を早目に支払うよう申入れたり、商工中金から一億五、〇〇〇万円の融資導入を計画したりしたが、商工中金の要求する被告島藤建設の保証につき同被告の同意が得られないために右融資も立消えとなり、遂に昭和四九年八月二八日、当日決済すべき約一億円に及ぶ支払手形の決済ができず、手形不渡を出すに至ったこと(昭和四九年八月二八日山二建設が手形不渡を出したことは原告と被告新鋼工業を除く被告らとの間に争いがない。)、本件ビル一、二階は季節料理であるいのしし料理店用店舗であるため、約定竣工期までの完成が施主側の強い要請となっていたところ、本件ビル工事は、基礎工事段階で地中埋蔵物のために約二か月の遅れを生じていたこともあって、元請業者の被告島藤建設は、昭和四九年八月、本件ビル工事がはかばかしく進捗しなくなった頃から、山二建設の倒産等による工事の中断を憂慮し、山二建設から工事途中の本件ビルの引渡を受け、自らその工事を続行することを計画していたことに加えて、同年八月二八日、山二建設が手形不渡を出すや、本件ビル工事の下請業者らに動揺が生じ、放置しては、下請業者らが本件ビルの工事現場を占拠したり、物品を搬出する等の事態の発生も懸念される不穏な動きも出てきたため、前記手形不渡の発生した同年八月二八日、被告島藤建設は、山二建設から、本件ビル工事の出来高は後日精算することとし、本件ビルを現状で引渡す旨の同日付引渡書とともに工事未完成の本件ビルの引渡を受け、併せて、山二建設との間において、本件ビル建築工事請負契約を合意解除し(右合意解除の事実は原告と被告新鋼工業を除く被告らとの間に争いがない。)、(1)同日現在の本件ビルの工事出来高を一億一、五〇〇万円と査定し、すでに支払ずみの四、五〇〇万円を控除した未払代金は七、〇〇〇万円であること、(2)被告島藤建設は、本件ビル工事に従事していた山二建設の下請業者と工事継続のための折衝を行い、条件が成立した場合、以後右下請業者らは被告島藤建設との直接契約のもとに本件ビル工事を続行すること、(3)山二建設の下請業者が以後引続き被告島藤建設との直接契約で本件ビル工事を継続することを申出たときは、被告島藤建設が右下請業者らに対する山二建設の工事代金債務を重畳的に引受け、これを直接右下請業者らに支払い、被告島藤建設が支払った金額は、同被告の山二建設に対する工事代金債務と対当額で相殺勘定して精算すること、(4)山二建設は、被告島藤建設に対し本件ビル工事の仮設工事足場等を代金三五〇万円で譲渡することを合意し(山二建設が被告島藤建設に対し建築中の本件ビルを現状のまま引渡したこと、本件ビル工事の出来高を一億一、五〇〇万円と査定し、支払ずみの四、五〇〇万円を控除した未払額が七、〇〇〇万円である旨合意したことは原告と被告島藤建設との間に争いがない。)、同日付で右合意を記載した請負工事契約中断確認書を取交し、被告島藤建設は、これを山二建設の下請業者中の被告佐宗工務店、同三浦工務所ら主だった者に示し、下請業者らの下請工事代金については被告島藤建設が責任をもつ旨の意向を表明してその協力方を要請したこと、山二建設の下請業者らは、同年九月四日債権者集会を開いて代表者を選出したうえ(このことは原告と被告佐宗工務店らとの間に争いがない。)、その代表者である被告三浦工務所代表者は、被告島藤建設の意向に添って、同月七日、被告島藤建設の会議室において、山二建設の一般債権者代表、山二建設代表取締役山田二郎、同専務取締役鈴木伍郎、被告島藤建設の担当役員らと協議したこと、そして、その際、本件ビル工事代金残額七、〇〇〇万円中山二建設の一般債権者に支払われるべき三、五〇〇万円の支払方法が定められたほか、山二建設の下請業者に対しては、残額三、五〇〇万円の限度で各業者毎にその金額を確定したうえ、被告島藤建設が直接これを支払う旨の合意がなされ、その旨の四者協議書が作成されたこと、右協議結果に基づき、被告島藤建設から、同年九月一〇日、山二建設の一般債権者代理人の弁護士に三、五〇〇万円が支払われ、次いで、同月一四日、山二建設の下請業者に対する支払分三、五〇〇万円の支払がなされ、いずれも本件ビル工事についての山二建設の下請業者であって、引続き本件ビル工事の職方としてこれに従事することになった被告佐宗工務店は、一、八八〇万円、同三浦工務所は五一四万四、〇〇〇円、同東海ブロックは五八万三、九〇〇円、同大成ガスは五五万六、七〇〇円、同日鉄商事は四六八万円、同新鋼工業は二六〇万円とそれぞれほぼ各工事出来高の八割に相当する金員を、いずれも被告島藤建設振出の約束手形により受領したこと(被告島藤建設が昭和四九年九月一〇日三、五〇〇万円、同月一四日三、五〇〇万円を支払ったことは原告と被告島藤建設との間において、被告島藤建設及び同大成プラスターを除く被告らがいずれも本件ビル工事についての山二建設の下請業者であることは同被告らと原告との間においていずれも争いがなく、被告島藤建設及び同大成プラスターを除く被告らが右各金員を受領したことは右被告らのそれぞれ自認するところである。)を認めることができる。

三  以上認定の事実によれば、被告島藤建設は、山二建設下請業者であるその余の被告ら(但し、被告大成プラスターを除く。)の工事代金請求の基礎をなす本件ビルの引渡を受けているのみならず、山二建設の倒産による本件ビル工事の中断を避け、工事現場における山二建設の下請業者の不穏な動きを封じ、引渡を受けた本件ビルの建築工事を続行するためには、山二建設の下請業者に対する未払工事代金の支払につき自らその責に任ずることにより、引続き同下請業者らの協力を得ることに多大の利益を有しており、かつ、爾後の工事の続行につき右下請業者らと直接の契約関係をもつに至っているのであるから、昭和四九年八月二八日の山二建設と被告島藤建設間の合意及びこれに引続く同年九月七日の四者協議において被告島藤建設、山二建設及びその下請業者との間に成立した被告島藤建設が直接山二建設の下請業者であるその余の被告ら(但し、被告大成プラスターを除く。)に本件ビル工事代金中三、五〇〇万円を支払う旨の合意は、被告島藤建設が単に山二建設に代って、その下請業者たる右被告らにその代金を支払う旨のいわゆる履行引受の域を脱し、山二建設の右被告らに対する工事代金債務についての重畳的債務引受たる性質を具有するものとみるのが相当である。

尤も、《証拠省略》によれば、被告島藤建設が山二建設の下請業者に支払った三、五〇〇万円の領収証として、山二建設とその下請業者の代表である被告三浦工務所、同佐宗工務店、同新鋼工業連署の領収証が被告島藤建設に差入れられていることが認められるが、前記認定のとおり、各下請業者に対する支払は、直接被告島藤建設から個別的に同被告振出の約束手形によりなされていること、《証拠省略》によれば、右領収証は被告島藤建設から求められるままに、右連署についても格別の意味をもたせることは考えずに差入れたものであることが認められることからすると、右領収証の存在は必ずしも右認定に妨げとなるものではない。《証拠判断省略》

四  そうだとすると、被告島藤建設が同被告を除く被告ら(但し、被告大成プラスターを除く。)に対してなした前記各金員の支払は、右認定の重畳的債務引受に基づく被告島藤建設自身の債務の弁済であって、これを破産者たる山二建設のなした債務の消滅に関する行為であるとみる余地はないから、否認の対象とはならないものというほかはなく、右被告らに対する原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく、その理由がない。

五  なお、《証拠省略》によれば、被告大成プラスターは本件ビル工事につき山二建設の下請業者ではなく、当初から直接その元請業者たる被告島藤建設との間に契約関係を有していた者であると認められ、《証拠判断省略》、同被告に対する原告の請求は、その前提を欠く失当なものであって、棄却を免れない。

六  次に、前記認定の事実によれば、被告島藤建設は、山二建設との間の昭和四九年八月二八日付合意に基づき、山二建設に対し七、〇〇〇万円の支払債務を負ったものというべきである(原告の本件ビル新築工事請負契約に基づく代金請求は、同契約が合意解除されているから、理由がないことは明らかである。)が、支払ずみであることに争いのない三、五〇〇万円を控除した残額三、五〇〇万円についても、右同日付合意及びこれに引続いてなされた同年九月七日付四者協議の結果に基づき被告島藤建設が山二建設の下請業者に対し同額を支払ったことにより、対当額で相殺勘定され、消滅に帰したものというべきである。しかして、被告島藤建設のなした右支払が重畳的債務引受に基づく同被告の債務の履行としてなされたもので、山二建設の弁済行為に当ると解する余地はなく、原告主張の否認の対象となり得ないことは前判示のとおりであるから、原告の再抗弁も理由がない。

なお、原告主張の不当利得の成り立ち得ないことは叙上の判示により多言を要せずして明らかである。

七  よって、原告の本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 落合威)

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